ネズミ忌避具Zの実証事例
- 【おことわり】
- 本ページは、山田裕康氏・坂元依子氏ほか(千葉県中央家畜保健衛生所)による調査・報告資料をもとに、内容を整理・要約したものです。
はじめに|実証データに基づくネズミ対策の取り組み
従来の防除対策を行ってもネズミ被害が改善しない養豚場において、忌避具を用いた実証的な取り組みが行われました。本事例は、千葉県中央家畜保健衛生所の山田裕康氏・坂元依子氏ほかによって報告されたもので、ネズミの習性に着目し、「殺す」のではなく「住みにくくする」という発想で対策を組み立てた点が特徴です。
本章では、その取り組み内容と結果を、現場で再現しやすい形に整理してご紹介します。
対象農場の概要と被害状況
農場の概要
対象となったのは、母豚101頭を飼養する一貫経営の養豚場です。
分娩・ストール舎と子豚・肥育舎の木造2棟構成で、肥育豚にはウエットフィーディング(水と飼料を同時に給与する飼養法)による不断給餌が行われていました。
- ポイント
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- 飼料が常にある環境
- 木造構造で隙間ができやすい
- 天井裏・断熱材スペースが多い
いずれもネズミが定着しやすい条件がそろっている状態でした。
発生していた被害の実態
平成14年頃からネズミの侵入が確認され、被害は次第に深刻化していました。
- 確認された被害
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- 床や通路へのネズミの糞の大量散乱
- 飼料への糞の混入
- 屋根の断熱材や壁の破損
- 柱や梁にラットサイン(こすれ跡)
- 天井付近の隙間に約20匹のクマネズミが群れている状態
これらは見た目の問題だけでなく、衛生面・生産性・設備保全の面でも重大なリスクとなります。
従来行っていた対策とその限界
この農場では、従来からクマリン系殺鼠剤を年2回散布する対策を行っていました。しかし、被害は改善せず、ネズミの生息は継続していました。
- 当時の状況
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- 薬剤を使っても個体数が減らない
- 効果が出ても一時的
- すぐに再発する
さらに畜主からは、「豚が誤って薬剤を口にする可能性があるため、柱や通路など、豚が触れる場所には薬剤を置きたくない」という強い要望がありました。
ここが重要なポイントです。
理論上は有効な対策でも、現場では「使えない」「使いにくい」ケースが多いということ。
つまり、「効く対策」と「実際に使える対策」は別という現実がありました。
この制約の中で、薬剤に依存しない方法を探る必要が出てきたのです。
ネズミ忌避具Z導入の考え方と設置方針
なぜ「ネズミ忌避具Z」を使うことにしたのか
ネズミは、先の尖ったもの・不快な感触・足場の悪さを本能的に嫌います。
この習性を利用し、「殺す」のではなく、「近づけない」「居続けられない」環境をつくるという発想で導入されたのが、「ネズミ忌避具Z」です。
「ネズミ忌避具Z」は、ステンレス鋼と樹脂で構成され、半永久的に使用可能な構造になっています。薬剤を使わず、家畜に影響を与えない点も大きな選定理由でした。
設置対象と方法
設置にあたっては、やみくもに配置するのではなく、ネズミの通行路を特定したうえで、重点的に遮断しました。
- 主な設置箇所
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- 縦柱・横柱(昇り降りの動線)
- 飼料輸送パイプ
- パイプ切替チューブを留めるチェーン部
- 天井付近の移動経路
- 考え方のポイント
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- 侵入口だけでなく、「通る場所」「溜まる場所」すべてを対象にする
これが、後の効果に大きく影響します。
試験設置と初期の反応
まずは1豚房分に試験設置を行い、赤外線カメラで夜間の行動を観察しました。
- 確認された反応
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- ネズミが忌避具に近づく
- 途中で足を止める
- 方向転換して引き返す
つまり、
「通れない」「行きたくない」反応が明確に出たということです。
この段階で、「ネズミ忌避具Z」が、物理的な障害として機能すること、そして心理的な忌避効果もある
ことが確認されました。
全面設置とその結果
試験結果を踏まえ、平成16年4月に子豚舎・肥育舎へ計2,000個の忌避具を設置しました。
- 設置直後の反応
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- 忌避具にぶつかる
- 逃げ回る
- 悲鳴に近い鳴き声を発する
一時的にパニック状態になる様子が観察されました。
しかし、1か月後に個体数を確認したところ、大きな変化は見られませんでした。
ここがこの事例の非常に重要なポイントです。
- 忌避具だけでは「追い出せない」
- 忌避具だけでは「減らせない」
という現実が、はっきりと分かりました。
追加対策と環境改善の取り組み
そこで、忌避具の単独使用では不十分と判断し、複合的な対策を実施しました。
- 実施した対策
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- 粘着トラップの設置
- 動力噴霧器によるネズミの追い出し
- 生息場所の洗浄・消毒
- 忌避具の追加設置(約700個)
- 鉄製遮断板の設置
- 天井裏への限定的な殺鼠剤散布
これらは同時並行で組み合わせて実施されました。
ここで重要なのが流れです。
- 追い出す
- 汚れ・ニオイ・痕跡を消す
- 忌避具と遮断板で戻れなくする
つまり、「追い出し → リセット → 再侵入防止」
という一連の流れをつくったことが、効果につながりました。
防除効果の検証結果
赤外線カメラによる定点観測の結果、以下のような明確な改善が確認されました。
- 出現出現数:121匹 → 41匹に減少
- 床や通路の糞の散乱がほぼ消失
- 飼料への糞の混入も解消
単に「見えなくなった」のではなく、数値として減少が確認された点が、この事例の信頼性を高めています。
「ネズミ忌避具Z」の特性(利点と注意点)
利点
- 利点
-
- 半永久的に使用可能で、交換の手間が少ない
- 落下しにくく、豚が誤食する心配がない
- 飼料があっても効果が落ちにくい
- 薬剤と違い、家畜への影響がない
現場で“使い続けられる対策である点が大きな強みです。
注意点
設置に手間と時間がかかる
鋭利なため、取り扱い時に注意が必要
通行路の数によって必要個数が大きく変わる
導入時には、事前の動線把握と設計が重要になります。
考察|なぜ効果が出たのか
今回の事例から分かる最も重要な点は、「ネズミ忌避具Z」そのものに明確な防除効果が認められたということです。
試験設置の段階から、ネズミが忌避具に近づくのをためらい、引き返す行動が確認されており、「ネズミ忌避具Z」がネズミの行動を抑制する有効な手段であることが示されました。
また、全面設置後にはネズミが忌避具に触れて逃げ回る、悲鳴に近い鳴き声を上げるといった反応も見られ、ネズミにとって強いストレスとなる環境をつくり出せていたことが分かります。
このことから、「ネズミ忌避具Z」はネズミの行動そのものに影響を与える実効性のある資材であると言えます。
一方で、今回の事例では、「ネズミ忌避具Z」の設置に加えて、追い出し、洗浄・消毒、遮断板の設置などを組み合わせることで、防除効果がより明確な形で現れました。これは、「ネズミ忌避具Z」の効果を補うというよりも、「ネズミ忌避具Z」を軸にした対策を完成形に近づけた結果と考えるのが適切です。
つまり、「ネズミ忌避具Z」は単独でも有用であり、併用することでその効果を最大限に引き出すことができる対策である、という位置づけになります。
ネズミは学習能力が高いため、中途半端な対策ではすぐに慣れます。しかし、「戻ろうとしても戻れない」環境をつくることで、定着を防ぐことができます。
まとめ|現場で活かすためのポイント
本事例から分かる重要なポイントは、ネズミ対策は一度やって終わりではなく、継続的な管理と工夫が不可欠であるということです。
畜産農家自身がネズミ防除への意識を高め、日々の管理の中で工夫を重ねていかなければ、ネズミの防除は簡単には達成できません。
特に、生産農場における食の安全性を守るという観点からも、ネズミ対策は非常に重要です。
ネズミは病原菌を媒介する可能性があるため、感染源の排除は畜産物の安全性確保の基本でもあります。
今回の調査では、「ネズミ忌避具Z」に防除効果があることが確認されました。
殺鼠剤が使用できない場所や、薬剤の効果が十分に見られない場合でも、「ネズミ忌避具Z」は現場で実用的に使える防除手段の一つとして有効であると考えられます。
重要なのは、
「何か一つの対策に頼る」のではなく、
「現場に合った方法を選び、継続して管理する」こと
です。
「ネズミ忌避具Z」は、その中核となり得る資材であり、継続的な防除体制を支える一つの有力な選択肢として活用できます。
この実証実験を踏まえ、次の記事では、効果のあるネズミ侵入対策に関する考え方と具体的な提案をご紹介します。
- 【参考文献・資料】
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- ■山田 裕康・坂元 依子 ほか
- 「養豚場における忌避具を用いたネズミ防除効果」
関東畜産学会報, 2007年 - ■千葉県中央家畜保健衛生所
- 「忌避具を用いた養豚場のネズミ対策」調査報告書